かわいいは魔法

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わからない感覚が気持ちいいだけだよ(舞台「染、色」配信の感想ログ)

 

加藤シゲアキさん原作・脚本の舞台「染、色」の 配信を見た感想の記録です。

ほとんど自分のための覚え書きに近い。

見た後に感想を語り合いたくなる舞台、という感想を公演期間中にTwitterでよく見かけて、配信を見て確かになぁ~と思ったものの、語り合える友がなかなかいないのでせめて文章をインターネット上に公開して供養しておこうと思った次第です。

NEWSのFCでの抽選に落ちて、東京公演は緊急事態宣言中で一般発売もなく、現地で見られるチケットを手に入れられる状況ではなかったから、この状況を汲んで配信をやってくれて本当に嬉しかった。おかげでこうして見ることができて、感想をこねくり回せている訳なので。

 

以下配信視聴後の感想↓

 

 

 


わからん、全然わからん。見終わって最初に思ったことがこれだった。

 

 

深馬「でもなんだか惹かれるんだ」

真未「わからない感覚が気持ちいいだけだよ」

この台詞好きだった!!「わからない感覚が気持ちいいだけ」で理由もわからず惹かれる衝動ってたくさんある。だからこそ私はいろんなエンタメを見てるんだと思うし、まさにこの作品だってそう。

 

深馬「秋に咲いた桜は次の春も咲けるのかな」

シゲアキさん秋の桜の話、好きだなあ………ソロ曲「星の王子さま」の歌詞で出てきた話がここでも台詞として出てくる。

 

真未「耳障りの良い言葉並べたら詩になるなら居酒屋のお品書きだって詩になる」

この台詞も好きだった。リズム感が良い。詩っぽいものを馬鹿にするようで、居酒屋のお品書きに詩的なものを見出してもいるのが良い。

 

 

ざっと生い立ちを話して「普通だよ」って真未に言われる深馬………はつまり、真未に「普通だよ」って言わせた深馬自身でもある。普通だよって言われたいんだよな、自分は天才だって思ってしまっている、そう思う自分にもそう評価する周囲にも苦しんでいる、「天才の苦しみ」に溺れている自意識過剰さが苦しい、結果としてつまり凡才であると思いたい。凡才だ、普通だって言われたい。


「あなたは何にだってなれるんだよ」「あなたが私に頼んだんだよ」って深馬にしきりに言う真未に、「頼んでない!」「そんなことまでしなくても」って応える深馬。

 

自分が直視したくないけど自分でわかってることを、誰かに突きつけられて言われたかったこと、自分ではそんなことまでしなくてもって思うような思い切ったこと(絵を壊すとか、スプレー缶一個隠されただけで泣き叫ぶようなこととか)、言われたかったこともやりたかったことも全部真未に言わせてやらせて、それはつまり自分で他者に投影して自分でやってた、ということ?

 
そ、そゆとこ、加藤シゲアキ〜〜〜!となった……。現実を突きつける役割を他者に押し付けておいて、最後に自分自身が望んだんだろってさらに現実を突きつける残酷さというか、現実主義というか。そしてまさに自分でわかってるくせに直視できなくて言われたかったことを誘導して他人に言わせるの、昨年私が友達にやらせたことだし………。だからこそ突き刺さってきて痛いけど痛気持ちいいみたいな。

 
でもさ、シゲアキさんは才能がある人で、才能がある側に立って、小説であれ脚本であれ作品を完成させて自らの手から離れさせるということを事実やれている、なんなら戯曲初挑戦のこの作品でまさにその行為をやっている人で、その怖さを乗り越えた人がその苦しみを書いている訳でしょ?チョー悪趣味!!!(これは苛立ちなんだけど同時にとても大きな愛です)

 

 

深馬と真未のセックスと同時に杏奈の就活の面接シーンを見せるのは悪趣味が過ぎててちょっと笑える、だって杏奈の側からしたら、自分が就活の面接を受けてる最中に彼氏がまさに浮気の真っ最中なのなかなかの最悪な場面。それをあの演出で見せるのなかなかに悪趣味で好き。

 

杏奈「私を家電に例えると、ですか?」

この台詞、現実に就活の面接でありそうでなさそうでありそうな絶妙なラインで良い。クスッとする場面。

 

 

最後の真未の部屋でうつぶせオナニーしてた深馬(そういうことで合ってるのか?)は原作でも印象的な描写だったのでなんだか達成感があった。

しかし自担のオナニー見せられた正門担は大丈夫だったんだろうか……?

 

 

深馬「俺だよ。大丈夫?杏奈、今から会えないかな」

ここの正門君の演技がめちゃくちゃよかった……。ボロボロになった後の青年、そう見えるだけの怒涛の感情の動きを、彼はこの舞台で毎回再現して追体験できるのだなあ、と思った。すごかった……。

後から原作を読みなおしたらこの台詞は原作にもそのままある部分なんだな、だからこそ印象深かったのかもしれない。

 

 

ここからはわからん!ってなった部分の謎解きみたいな、情報の整理をしようとしている文章。


ポリダクトリーを描いていたのは誰?

事実、展覧会の絵に描き足したのは真未、つまり真未だと思っていた深馬自身。恐竜の骨の絵を描いたのも真未だと思っていた深馬自身。ヤギの絵と6本指の手形を残したのも真未と思っていた深馬自身。それ以降の絵は深馬の認識としては深馬が真未と2人で描いたと思っていて、それはつまり深馬が1人で描いたのだと私は思っていたけど、終盤の原田と北見によるとキュレーター・ロランス朱里の企画で深馬も含めてみんなで参加していた……??

 

深馬の記憶→深馬と真未が描いていたポリダクトリーの作者になりすました滝川先生、に原田は救われていて恩があったから頼まれて映像を撮っていた(原田が滝川先生に恩があった、という部分は終盤でも原田が深馬に言ってはいなかったが事実と認めていた)、原田に映像を流していいよって言った深馬。病室で原田と北見が先生は器物損壊で捕まって大学を辞めさせられた、上は頭が硬いよなって言っていたのは……?

スーツの原田→「先生は画家の勉強をするためにフランスに行った」深馬が深馬の絵を壊す映像を見て混乱する深馬に「まだ駄目だったんだな」(深馬が”真未が絵を壊す映像”として認識している映像を過去に深馬に見せたのは事実だった?それを受け入れられなくて倒れた?)

 
深馬のキャンパスを壊したのは真未だと思っていたが深馬自身。

 

真未「完成したら触れられなくなるから怖いんだ」「全部未完成のまま」「あれは壊すために作られた、あんたが決めたんだよ」

真未に言わせたこともやらせたことも、深馬自身の感情であり深馬自身がやったこと、と思って振り返るとなかなか怖い。

 

深馬って結局ずっと正気じゃない芸術家なのか?

 


単位をあえて落として留年した深馬。

1週間倒れてた後は杏奈の家にいて、そのことを「作品を描かなきゃいけないこともなくなったし、描きたいとも思わなくなった」「ただ時間が過ぎていった、それが必要だった」って語る深馬だけど、でも実家に帰らないで留年したのは?結局絵を描きたいのか?

 

 

深馬「ひとりごとかも、最近気付いたら喋ってるんだよね」

この台詞も、真未は自分が作り出した存在で深馬自身だって薄々自覚あるのでは?と思える。

 

 

総括 


なんかこう、シゲアキさんの作品が舞台になったなあ、舞台上に現れたって感じ。その意味で加藤シゲアキの原液に浸かった感じもあるし、でも加藤シゲアキの本をもとに広げられた世界だから脚色が加わってそのものではないような気もする。


女がクソ都合良くて、男がクソデカ感情を持っているの、間違いなくシゲアキの本。って思った。これは偏見です。

 

 

ここまであれこれ邪推をしたうえでパンフレットを読んで、脚本家や演出家という制作者の意図としても、この舞台はロジックがわからなくて解釈は人それぞれ、でいいんだろうな、と思った。筋は通ってないかもしれないし、それでいて見た人の心に残るものも、突き刺さってくるものもある。同時に、個人的に印象深かった真未の台詞「わからない感覚が気持ちいいだけだよ」がより色濃くなったように感覚がある。そういうことなのかもしれない。

 

 

そして、ここまで考えてから原作を読み直した。久しぶりに読んだからあ〜こんな話だったかー!って思うくらい内容を忘れていた。パンフレットでシゲアキさんが「居抜きで別の店が入るみたいなこと」って言ってるけど、確かに全然違う………。モチーフは同じだけど全然違う作品、みたいな。原作の内容をほぼ忘れてたから舞台を見て違和感なく世界観に浸れたんだと思うし、一方で読んだことあるからこそ、初めて見る場面や展開なのに「これ知ってる!」って気持ちで見れたのだろうなと思う。

それでいて、ロジックは全然違うのに、原作の場面や出来事をきちんとなぞっていく舞台なんだよなあ。これこそが、シゲアキさん本人も言っていたし、観劇した人たちも言っていた、「原作者と脚本家が同一人物だからこそできる大胆な改変」なのだと思う。

うーんでも、小説のほうが現実の延長線上というか、より文学的だけどどこかでほんとに起こっているかもしれない、と思うような話だと思って。舞台の方がむしろファンタジーというか狂気的というか、最後にどんでん返しがあって、現実にはあり得ないことのように感じられる。リアルからある意味では遠くて自由度が高い文字の羅列である小説ではリアリティをも感じられる話で、舞台上で実際に生身の人間が演じる舞台の方がリアリティから遠ざかるように思えるというのは、ちょっと面白いことだなと思った。

 

 

ぐるぐる考えたけど何一つ結論も答えも出てなくて、でも作品を見て読んで感じて考えて、この営為が楽しかったからそれでいいんだと思う。素敵な作品をありがとうございました!